所得税法56条と必要経費不算入

 所得税法の上では、個人事業主が支払う給料、家賃、地代などは原則、必要経費に算入できますが(所法37)、その支払いを「生計を一にする」親族に行う場合等には、その分を個人事業主側で必要経費に算入できず、同時に、親族側では所得が生じなかったものとみなされます。
 この点、所得税法は個人を課税単位とするものではなかったのかと疑問をもつ向きもありますでしょうが、このような制度設計とは別に、家族や親族といった“身内”間での恣意的な所得移転による租税回避防止のために、“世帯単位課税”の考え方をもつ所得税法第56条を規定していますので、このような扱いとなっています。
 具体的には、例えば弁護士A(個人事業主)が「生計を一にする」妻・税理士B(個人事業主)に確定申告書の作成を依頼し、その報酬100を支払っている場合、その100を弁護士A側で必要経費算入することはできません。一方、妻である税理士Bでは報酬100は生じないものとみなされ、この100に係る課税関係は生じません。つまり、①個人事業主と生計を一にする親族が、②その事業に従事することで対価を受ける場合には、その分を個人事業主側では必要経費に算入できません。先述の“世帯単位課税”の趣旨により、世帯単位の所得は変わらないため、このような課税関係となります。
 もっとも、例えば長男C(個人事業主)が「生計を一にする」父親Dから店舗用敷地を無償で借りているような場合に、父親Dが店舗用敷地に係る固定資産税10を負担しているのであれば、長男C側で10を必要経費に算入し、父親D側では10の負担をなかったものとする取り扱いもあります(所法56、所基通56-1)。この点を失念し、関与先から税理士損害賠償請求を求められた事例もありますので、留意が必要です。

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